あのときはそれがうれしかったのです。

あのときはそれがうれしかったのです。

わたくしをどくせんしたいのだ、とおっしゃいました。そして強く“きすまあく”をつけたのでした。わたくし、初めてだったものですから、思ったよりも痛いものだと思いましたが、それ以上にこんなわたくしをこれほどに愛してくださっているのだと、とくに我慢する意識も持たないままそれを受け容れたのでした。

今思うとあれはなんだったのでしょう。

あのときはどくせんしたい、ということばにやっと居場所を見出した思いがしました。ところが今ではわたくし、じぶんの居場所などというものが、それがそこにありつづけるということが、そうぞうしただけでもう胸苦しくなってしまうのです。

わたくしの居場所は今はここにある。けれど、明日もここにあるかどうかはわからないし、わかりたくもない。明日のわたくしを閉じ込めないために。0.02mm。

明日のわたくしが、今日と同じようにわたくしのものであるために。0.02mm。

ロマンチックシモネタ。