100kmは思っていたよりも遠いものだった。

100kmは思っていたよりも遠いものだった。

まさか自分が遠距離恋愛などというものを経験することになろうとは思ってもいなかった。もしかすると人生で唯一の遠距離恋愛になるのかも。それを経験して知ったことは、冬の新幹線のホームはとても寒いということだった。

開けたばかりのブラックコーヒーの、缶から立ちのぼる湯気に鼻を寄せて女は言った。“この香りは好きなんだけどね”

缶コーヒーは、見送ったあとにはもう冷めていた。それを一息に流し込んで、ひとり階段を下る。ポケットに冷えた指先をつっこんで

上手にあたためたり、冷ましたりしないと100kmもの距離はあやつれない。それが上手になったからといって、何が変わるというわけではないのだろうけれど。

もし、どうしてもあたためたくなったら、距離を近づければいい。0.02mm。そうすれば指先までぽかぽかしてくる。一度そこまであたためてから、またゆっくりと冷ませばいい。

0.02mm。まるでサーモスタットのような。
 
 
ロマンチックシモネタ。